ハラスメント対策の必要性と解決策について ~360度評価の有効性~

ハラスメントによるレピュテーションリスクや防止策

2020年11月、某大手電気機器メーカーにおいて、ハラスメントが原因と思われる社員の自殺など労務問題が頻発したことを受けて、防止策を発表しました。

同グループでは、2014年以降に、過労自殺などが相次ぎ労災認定を受け、2019年8月には教育主任から暴言を受けていたとみられる新入社員の自殺も発生したことから、再発防止策として、長時間労働とハラスメントの撲滅に向けて労使が全力で取り組むことの宣言の採択とあわせて、次の具体策を発表しました。

  • 全役員・全社員を対象としたハラスメント行為をしない旨を誓わせた宣言書の提出
  • 管理職を対象とした360度評価の導入
  • 労務問題に関する対策指針の整備・パワーハラスメント事例等を従業員に公開

パワハラ防止法も昨年6月に施行され、連日マスコミでもハラスメント問題が取り上げられています。今回はハラスメントによるレピュテーションリスクや防止策としての360度評価についてお伝えします。

ハラスメントに対する厳しい目

労働契約法第5条により使用者には安全配慮義務が課せられています。

【労働契約法第5条】
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

企業が十分な防止策とらずハラスメントが発生してしまった場合は、安全配慮義務違反となり被害者に対して民事上の賠償責任が発生します。実際に過労自殺により1億円を超える損害賠償額となった事例もあります。

また2015年の電通の過労自殺問題ではハラスメントだけでなく、過重労働による労働基準法違反で企業が処罰され、結果として入札停止など措置も取られました。ハラスメントは民事や行政上のペナルティーも大きく、レピュテーションリスクも伴うため、企業経営において大きなマイナスインパクトになります。

以前にも増してハラスメントに関する世論は厳しくなっており、連日マスコミに取り上げれられています。先日も旭川でコロナ患者の受け入れを巡って、大学病院の学長の発言が問題となり、文科省が調査することがニュースとなりました。スポーツ界での師弟関係などでも頻繁にハラスメントが取り沙汰されています。

また、ハラスメントがSNSなどで炎上するとあっという間に拡散されてしまい、インターネット上においてもほぼ永久的に残ってしまうことから、企業取引や採用においても影響は甚大です。また投資家の判断材料とするESG(環境・社会・企業統治)スコアにおいても労務問題の不祥事が発生すると影響があるといわれています。

ハラスメント対策の必要性と解決策について

パワーハラスメントの防止が法改正により義務化

国もハラスメント防止に向けて法整備を進めています。
2020年6月に、パワーハラスメントの防止のための措置を企業が講じるよう法改正が実施されました。(中小事業主は、2022年4月から実施。それまでは努力義務)

事業主が講じなければならない具体的な措置は次の通りとなります。

■事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

①パワーハラスメントの内容・パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

②パワーハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

■相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。

④相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

■職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

⑥事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。

⑦事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。

⑧再発防止に向けた措置を講ずること。

■併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

⑨相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。

⑩相談したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

具体的な対応方法として、就業規則の服務規律や懲戒事由に規定し周知することで防止に繋げます。


あわせて、相談窓口の設置と担当者の周知も必要となります。
相談窓口の設置については、社内・社外を問いませんが、社内では透明性やプライバシーの点から相談がしにくいといった意見や担当として適当な人材をあてられるかなどの問題から、外部の専門家に任せる方法もあります。

弁護士や労務の専門家である社会保険労務士を社外相談窓口とすることで、パワハラに限らず他の労務問題なども相談できます。社内に窓口を設置する場合は、セクハラ問題なども考慮し相談がしやすいよう男女1名ずつ選任することなどが肝要です。

日本クレアス社会保険労務士法人の社外相談窓口 委託サービス

日本クレアス社会保険労務士法人では、人事労務のプロフェッショナルである社会保険労務士が、ハラスメントから労務トラブルまで幅広く従業員の皆さんの相談に対応いたします。

  • 社員のハラスメント放置すると会社も使用者責任を問われ損害賠償請求に発展
  • SNSでの拡散、企業のイメージダウン!売上減少・人材確保が困難に
  • 管理職の法令の理解不足から、不適切な労務管理が続きトラブルに
  • 社員と会社との信頼関係が崩れ、退職に繋がる

社外に相談窓口を設けることで、このようなトラブルによる炎上を未然に防ぎ、円滑な解決に結びつけます。ご相談は無料です、まずはお気軽にお問い合わせください。お問合せフォームはこちら

ハラスメントの防止としての360度評価

今、ハラスメントの防止といった観点からも360度評価が注目されてきています。政府も中央省庁のすべての課長級を対象に2019年の秋から360度評価を始めました。マネジメント力の向上やセクハラ・パワハラの防止が目的です。冒頭の事例でも評価結果を管理職の新規任命・継続時の見極めや教育主任の任命においても利用するとのことです。

上司が部下を評価する従来の仕組みでは、上司が部下の査定や昇進にあたり権限を持つことになりますので、部下は上司に対して率直な意見が言いにくいといった問題が生じます。

一方で360度評価は、従来の評価制度には見られない部下や他部署の社員から多面的に評価される視点が加わるため、部下に激しく接しているような上司に対してハラスメント抑止の効果が期待できます。(部下や周囲のメンバーも上司を評価する立場になるため、職制上優位である上司に対する牽制機能が働きます)

但し360度評価の導入にあたっては、上司が評価を気にし過ぎて指導がしにくくなることなどの問題が生じる恐れがあるため、企業に合致するかどうかの検討が必要です。

360度評価導入のメリット

・マネジメントで適切であるかのチェックができる
・要望や課題を伝える機会になる

360度評価導入のデメリット

・上司が部下の評価を気にし過ぎて指導ができなくなる(過度な迎合に繋がりかねない)
・制度に対する理解がないと上司・部下の関係が損なわれる
・会社のことを思って指導教育を熱心な上司の評価が低くなることがある

360度評価導入のポイント

導入のポイントとして目的や趣旨を正しく社員に伝え、前向きに理解し取り組むことが必要です。目的を理解した上で、部下は上司のマネジメントが会社経営上適切であるかなどの観点で評価をし、上司は部下からの評価結果を真摯に受け止め、自分を見つめ直すきっかけとするなど前向きな意識が互いに必要です。したがって社員の成熟度が低い際の導入については慎重に検討すべきです。

360度評価の結果についても、始めから査定や昇進に紐づけるのではなく、一定のテスト期間を設けた上で仕組化し、信頼関係を築いた上で反映するなど段階的に運用していくことが望ましいでしょう。

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