セミナーレポート
日本クレアス社会保険労務士法人主催「ハラスメント対策セミナー」

2019年4月1日より順次施行が始まった『働き方改革関連法』。事業主は労働者の多様な事情に応じた「職業生活の充実」を責務とするため、就業環境の整備に努めなければなりません。

この働き方改革の実現に向けた具体的な取り組みの一つとして、厚生労働省では「ハラスメント防止対策」を挙げています。

そこで、日本クレアス社会保険労務士法人では、このハラスメント防止対策に着目。雇用者側で労働案件を専門的に扱っている第一芙蓉法律事務所に所属、数多くの事件に対応されている弁護士、小山博章先生を講師にお迎えしたセミナーを開催しました。

セミナーでは、企業問題として取り上げられる機会の多いパワーハラスメント・セクシャルハラスメント・マタニティハラスメントを取り上げ、その定義や具体的内容、今後の動向を解説するとともにハラスメントを予防するにはどうしたらよいのか、又、実務的な観点から実際に相談や通報があった場合の留意点について詳しく解説しました。

このレポートでは、参加者の関心が特に高かった「相談や通報があった場合の具体的な対応方法」について、ご紹介します。


ハラスメント防止対策が、何故、いま重要なのか

従来のような「お尻を触る」「部下を殴る」といった典型的なセクハラ・パワハラは減少傾向にあり、最近は典型的ではない異なる形態のハラスメントが増えてきています

セクハラであれば、従来は男性から女性へ、パワハラであれば、上司から部下に対して行われるハラスメントのイメージが強くありましたが、最近では女性から女性へ、女性から男性へのセクハラ、同僚間、部下から上司に対するパワハラも発生しています。

また、LINEやフェイスブックなどのソーシャルメディア(SNS)を通じたハラスメントが急増しています。

SNSの普及で取り返しのつかない事態に発展

友達申請を迫る、「いいね」などの反応を強制するといったSNSを介して相手に精神的苦痛を与えるハラスメントをソーシャル・ハラスメント、ソーシャルメディア・ハラスメントなどと言いますが、SNSとハラスメントの関係はそれだけにとどまりません。

職場のハラスメントがSNSで発信、拡散された場合には、即座に「ブラック企業」のレッテルを貼られ、会社の信用は失墜し、ひいては株価暴落・取引停止・離職者激増といった事態に陥りかねません。

最近の傾向

典型的でないハラスメントが増えてきている背景としては、労働市場の中身の変質、変化により、女性が社会進出してきたことやハラスメントの対象がどんどん広がり、ハラスメントの概念が時代とともに多様化してきたことが考えられます。

実際の労働事件の現場では、加害者である従業員から「ハラスメントとは思っていなかった」と弁解がなされることが多々ありますが、いずれにせよ、「知らない間にハラスメントの加害者になっていた」という事態が増えているのも最近の傾向です。

ハラスメントが与える影響・リスク

ハラスメントにより、関係者が受けるリスクは様々です。加害者においては、職場での評価や周囲からの信頼を失うのは当然ですが、会社からの懲戒処分や人事上の措置(降格、異動など)がなされれば、その事実が家族にも知れわたることにもなります。

さらに、場合によっては、SNSなどで加害者本人だけでなく家族が批判を受けることも考えられます。また悪質なハラスメントであれば、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪など刑法犯にあたってしまうケースもあります。

被害者においては、個人の名誉や尊厳が害されるので結果として、やる気が削がれ、パフォーマンスも悪化したり、強いストレスから心身の健康を害し、長期欠勤や休職、退職、最悪の場合には自殺に及ぶことも考えられます。

企業においては、安全配慮義務違反、損害賠償の請求といった民事責任だけではなく、企業のイメージダウンや信用失墜から業績低迷、人材流出といった大きなリスクを内包することになり、企業が受ける損害リスクも決して軽視することができません。


ハラスメントの相談・申告を受けた際の対応

相談や申告を受けた場合には、事実関係の調査(ヒアリング)・社内処分・職場環境の改善といった流れで対応を進めますが、この対応を間違えると事態を深刻化させることになります。被害者の会社に対する不満を増大させ職場環境の悪化を加速させるだけではなく、会社が安全配慮義務違反に問われる、法的責任を負うリスクも増大していきます。

<事後対応の「まずさ」が原因として、会社に責任等が認められた裁判例>

■下関セクハラ(食品会社営業所)事件(広島高裁平成16年9月2日)
【事案】
セクハラ被害者が加害者及び会社に対し、セクハラの禁止の周知・徹底するための啓発活動を行う等適切な措置を講じていれば、セクハラは起こらなかったとして、会社の不作為がセクハラの一因となったと主張し、損害賠償請求
【裁判所の判断】
「公的機関から具体的な指摘を受けた以上、会社は、セクハラを実際に防止する、より強力な措置を講じる必要があった」とし、慰謝料50万円、弁護士費用5万円を認めた

■川崎市水道局(いじめ自殺)事件(東京高判平成15年3月25日)
【事案】
上司のいじめにより統合失調症を発症し自殺した水道局職員の父母による、市と上司に対しての国家賠償法等に基づく損害賠償請求
【裁判所の判断】
被害者からいじめの訴えを聴いた課長が、直ちにいじめの事実の有無を積極的に調査し、速やかに善後策(防止策、加害者等関係者に対する適切な措置、人事異動等)を講じるべきであったのに、これを怠ったとして、いじめを防止する職場環境の調整をしなかったこと等についての市の責任を認めた

ハラスメント申告・相談に対しては、正しい方法で、可及的速やかに調査を開始するとともに、職場環境を回復することが求められます。

申告・相談に対する対応の留意点①:傾聴に徹する

その場での議論や決めつけは厳禁です。問題をもみ消そうとせず、相談者を責めるような発言や決めつけるような発言は行わず、公正中立な姿勢で真摯に相談を受け入れる必要があります。相談者がどのような解決を望んでいるかをきちんと把握することも重要です。

申告・相談に対する対応の留意点②:秘密厳守・不利益取り扱いの禁止

相談内容が漏れることで相談者が二重に被害を受けることを防止することが目的です。実は、情報が一番漏れるケースが多いのは役員クラスです。情報が漏れてしまった場合は、二次セクハラとして責任を問われることとなります。

申告・相談に対する対応の留意点③:現場で抱え込まない

現場で解決しようとして、問題を拡大かさせるケースが多く見受けられます。現場で抱え込まず、すぐに人事部等の管理部署に情報を上げ、会社全体で対応することが重要です。そうすることで、相談者は「会社が誠実に対応する」姿勢が見え、納得感・安心感・会社に対する信頼の醸成につながります。


相談窓口開設からヒアリング調査時、処分決定時までのQ&A

セミナーの終盤では、ハラスメントの申告を受けた際の実務対応の全16のポイントをQ&A形式でご紹介いたしました。

  • 相談受付時、ヒアリング担当者は何名が良いか?ヒアリングを実施する場所は?
  • 加害者から弁護士同席を要求された場合にはどうすればよいか?
  • ヒアリングの録音の要否及び同意の要否、秘密録音の証拠としての信用性は?
  • 「酔っていて覚えていない」という証言があった場合の事実認定は?
  • ハラスメント加害者が被害者に謝罪したいと申し出てきた場合の対応は?

限られた時間でのセミナーとなりましたが、会場は満席となり、終了後には弁護士小山先生に活発にご質問をいただくなど、ハラスメント防止対策に関する関心の高さがうかがえるセミナーとなりました。

日本クレアス社会保険労務士法人主催「働き方改革セミナー」のご案内

昨年7月に公布された働き方改革関連法。70年ぶりの労働関連法の大改革に日本が直面している社会問題の解消が期待されますが、同時に従業員を雇用する会社にとっては、新たな対策を求められることになります。
残業時間の上限規制」「有給休暇の義務付け」「健康管理の徹底」「同一労働同一賃金」をキーワードに、会社が押さえておくべき実務対応のポイントについてセミナーで解説を行います。管理職・人事担当者の方はぜひご参加ください。

セミナーの詳細・ご予約はこちら⇒ 働き方改革セミナー